全力で頭を抱える日記

おもに乙女ゲームの感想を中心に。ネタバレご注意。

19 2019

イグニスルート 感想

端的に言うと、合わなかった。最初から最後までだいたい合わなかった。
出されたものを美味しかろうが不味かろうがなんだろうが完食する心意気だけは持つようにしているが、味が中途半端なのが一番困った。締まりのない味がするものをずっと飲ませられた気分だった。

いやしかし共通ルートがそこそこ長かったが、これで彼らと仲良くなったという意識があまり植え付けられなかった時点で物語に没入出来ていない。共通ルートでは四人の人外と一人の人間のやりとりというか紹介のようなイベントが挟まれているのだが、これが本当にキャラクターと世界観の紹介程度に留まっていてそれぞれとの仲を深めたという感じがあまりしない。実際主人公とキャラクターたちが濃く関わり合うようなイベントはなかったように感じた。

さらに一番自分と相性が悪かったのが、このライターのクセなのか大本のオトメイトの舵切りなのかはわからないが、『物語上よく見せたいキャラクター』のために、『物語に深く関わらないキャラクター(モブなど)』を過剰に悪く見せることがそこそこ見受けられた。何が辛いって、こういうシーンを見させられてその『よく見せたいキャラクター』に好印象を抱く前に、気分の悪いものを見たという気持ち先に来るからだ。だからそういったイベントが来るたびに、イベント全体に対してあまり良い印象を持てていない。
序盤に主人公が元職場から毎日のように電話が掛かって来て、電話に出たら戻ってこいと怒号を浴びせられ、アンシャンテがあってここが自分の居場所だと、過去と決別するようなイベントがあるのだが、これをなんとも言えない表情で見ていた。決別出来たことは素直に良かった、と思うのだが、これが本当に必要な描写だったのかと問われると疑問が残る。手取り10万で怒号浴びせられて退職してからもクソ電話がかかってくるような元職場と、今の所人畜無害そうな人外4人に飲み物と食べ物提供するだけで50万相当の金塊が貰える場所ならそりゃ誰だって後者を選ぶ。仮に、職場の人間関係や金銭的にも普通の生活を送っていたけど、アンシャンテの面々が大事だからという理由でアンシャンテを選ぶのなら、アンシャンテへの思い入れのようなものを感じることができるが、こういった明らかに比べるまでもない描写のために、理不尽なことを言うキャラクターが一瞬でも登場するのが心証が悪くなる。こういうのを比較として、二度三度も続くととてもつらい。
別に比較するようなイベントを持ってくるなという話でもないが、こういったように比べるまでもなかったり、誰かや何かを強く比較して主要キャラクターを良く見せようとするのが、合わない。そして魅力を感じることも出来ない。比較することに物語上大きく意味があったりするのならまだ理解も納得もできるが、一瞬で終わるようなやり取りを見せられても、そりゃよく見せようとしてるのだからよく見えるのは当然だとも感じてしまう。私は彼らの考え方や単体で見たときの素材の良さを感じたかったし楽しみたかった。わざとらしさを感じてしまった時点で自分は画面の中に入ることが出来なかった。


そんな感じで共通は感情が全くと言っていいほど無風状態だったが、ルートに入るとそこそこ楽しめた。何が楽しめたって黒幕の考え方に。
物語上の一連の流れは面白く読めた。イグニスに関する伏線も綺麗に回収していたし、物語の謎も上手く組み込まれていて楽しんだ。しかし乙女ゲーにあるまじき、全く萌えること無くどちらかといえば黒幕側に共感して終わった。三ツ星ディナーから道端の草や泥など色んなものを口に含みすぎて私の舌がバカを通り越して狂いまくってることは否定出来ないが、それでも黒幕の行動理念と考え方は納得するものが大きかった。

イグニスに関する食の描写については本当に面白かった。仲間を殺されて狂気になりかけたところで主人公の祖父が作ってくれた初めての食事で【美味しい】という感覚を覚えて心を落ち着かせるという展開は、なんだかとても素敵だなと思った。そしてこれが終盤、実は初めての食事ではなく、ここに来る直前にすでに暴走して魔獣を食らっていたというのがバラされるところも悪辣な展開でとても良い。
イグニスはベスティアという強さが正義みたいな世界に生まれながらも、仲間を不条理に殺されたことに怒り、意味もなく自分の強さを見せつけるための殺しをしない=不殺を誓っていた。ちなみにこれをイグニスが語るときに「人間のように食事で殺すのなら意味はあるが」的なニュアンスのことを語るのだが、ベスティアの魔獣たちは皆食事を取らずに生きていける体なんですと。だから魔獣が別の魔獣を殺すことは力の証明でしかなかった。
上述したが、物語終盤でイグニスにこれが降り掛かってくるのが良い。イグニスが食事をする描写を微笑ましく見れていたのに、それが実は食肉衝動に関連した伏線であったり、食事を作っていた主人公が逆に捕食される側へと反転するのも良い。イグニスは界喰狼と呼ばれる過去に人間や別の種族の魔獣を食らっていたベスティア界一のやべーやつの子孫で、この事実が今まで穏やかに受け止めていた物事を一気に反転させていたのはとても楽しかった。

そして追い詰められていき、衝動に負けて仲間を攻撃して主人公の腕をも食らってしまうのは強い展開でとても引き込まれた。愛し合う男女が本能的なことで引き裂かれてしまうのは亜人だからこその展開で楽しんだと言うか。この前座として、距離を取ろうとしていたイグニスに対し『自分はまだイグニスに酷いことされてないから大丈夫』だと悪くいえば甘っちょろい考えだった主人公が垣間見れるイベントがあること。その展開を見たあとにこれなので、非情な事実を味わわせられるのがとても痛くて良かった。
ただ同時にめちゃくちゃがっかりしたのは主人公が腕を食われたとあって、私はてっきり、肘からか肩からかまるごと引きちぎられて持ってかれたのだと思ったら、神経にも到達しないぐらいの肉をえぐられた甘噛程度だったこと。本能が暴走して主人公のことすら判別出来ないような状態で、周りの魔獣殺しまくって、アンシャンテの仲間も殴る蹴るの暴行してたくせに主人公の腕のお肉一口パクリしただけでメッチャクチャ重大事件のような描写だったのは結構モヤモヤ来た。てっきり取り返しのつかないことをしてくれたのだと思ったら……こういった中途半端な描写をされるならいっそのこと無いほうがマシだった。本能の中でも理性で主人公だけは傷つけないように止めたと解釈もできるんだが、それだと事の重大さがなくなるように感じる。

イグニスを一生懸命に界喰狼として目覚めさせようと裏で主人公を殺そうとしたり魔獣を狂わせてイグニスに戦わせて闘争本能刺激してたのが、イグニスの舎弟であると慕っていたドローミくんでした。コロロがやたらと威嚇していたり、都合よく出てきたりいなくなったりしていたので大方の予想はついていたけれど、彼が犯人であることへの驚きよりも、なぜこのようなことをしてイグニスを目覚めさせたのかの理由がとても興味深かった。
彼自身もベスティアで生きていく中で家族や友人を強さの証明のためだけに殺され、そんな中現れたのが魔獣を捕食し生きるために他者を殺す界喰狼であるイグニスだった。

ドローミ「空腹を満たすために殺すんだ!!生きるために、殺すんだ!!
――悪意なく、ただ本能のみで!!
死者の尊厳を守り、その肉と血を身の内に取り込み……共に!! 永遠に生かしてくれる!!
血を流すことは同じでも、その意味は全然、違う!!」

何が面白いって、作中でも語られている通り、イグニスもドローミも家族や友人を殺された境遇は一緒で、ベスティアという悪意ある殺戮の世を変えたい、という思いは共通していること。なのに方法は全く違う。イグニスは『意味もなく殺されたから、他者を殺さない世界にしたい』で、ドローミは『意味もなく殺されたから、意味のある死がある世界にしたい』この解釈違いがもうたまらなく面白かった。そしてドローミが望むものを与えてくれるのが現状イグニスだけというところも良い。
人間側がこの考え方に「狂ってる」というのだが、自分はとても理屈が通っていると思ったし、狂っているとは感じなかった。大切な人が無残に殺された悲しみで歪んだという結果なのかもしれないが、死に触れる機会の多いベスティアの住民としてはドローミの考え方のほうが常な気がする。逆に捕食する側のイグニスが人間的な考えの構図なのは感心した。人間も捕食する側なので。そして皮肉なことに、イグニスが語る理想の世界よりも、ドローミが語る理想の世界をつくる方がずっと簡単なことだと思えた。大勢を変えるよりも、一人を変えてしまったほうが効率が良い。
ドローミの考え方にすべて賛同できるというわけでは無いのだけど、『死んでしまった人の死を意味のあるものにしたい』という感情は、彼の他者を思いやる優しい気持ちからなのではないかなと思う部分も大きい。奪われることしか無かった側が、ならば奪われる意味がほしいと願うことは理解できなくはない。ドローミは一貫して奪われる側の思考なような気がしてならない。だから彼が願う世界に意味のある死を招いてくれるイグニス以外に奪う側が存在しない……ドローミ本人すらも『奪われても良い』と思われていそうなところがなんというか泥沼で良かった。いや、良かったと評するのもいかがなもんかと思うが、良かった。
そしてこれを捕食する側の人間が彼を否定するのはなんだか違うような気持ちになった。主人公は「奪われる悲劇が少しでも減るようにしてきたイグニスとドローミは違う」と言うようなことをドローミに伝えるのだが、ではイグニスが今後「奪われる悲劇」を生み出さないかと言うと違う気がする。作中では明かされなかったが、イグニスが捕食しないと生きていけない身体だった場合はどうするんだろうか。
それに人間だって生きるために色んなものを殺しているし、奪われる悲劇を生産する側なんじゃないだろうか。そこがテーマじゃないと言われればそれまでなのかもしれないが、食べて生きることをテーマにする以上これは目をそらしちゃいけないことなんじゃないかなと。現在進行系で食事関係で奪ってきた側の人間が奪われる悲劇を語っちゃいけないように思った。

それはともかく最終決戦では案の定主人公を人質に取られて暴走しちゃったイグニスを総動員でなんとかよしよしどーどーする展開でした。名前欄がずっと「弱小魔獣」とか言われてた可哀想なケモミミ種族たちに助けてもらったりして冷たい海に叩き落として愛のパワーで元に戻していた。ご都合主義か、と思う気持ちも無くはないが、異種間との恋愛で暴走した相手を宥めるのに愛が効かなかったらそれはそれで寂しいものがあるので、これはこれで良かったと思った。……その程度なのが寂しいが。
ただ夢破れたドローミくんが放置されてたのは可哀想だった。弱者がめっちゃ切り捨てられている。ここまで力ないものが救われる話だったのに、シナリオ的に彼が放置されて終わったのはなかなかに遺憾。メインの人物じゃなければないがしろにされても良いというわけではないと思った。このシナリオ的にも。

ちなみにエピローグで食事関係はトラウマになったから食欲を性欲に置き換えて頑張るわと言われてめちゃくちゃ笑った。奪うよりも作る方を頑張るみたいでなによりです。
正直に語ると、食べなくても生きている身体かどうかは別にして、ここで食欲を否定する展開なのもあまり納得がいかなかった。食事をすることで喜びと感動を覚えて心の平穏を取り戻せた事もあったし、主人公含む人間側は食べることから逃れることは絶対に出来ない。なのに食べることを否定されることは、それこそイグニスが奪った生命の意味が失くならないのか。

あんまり恋愛面語ってないが、お互い惹かれた理由はあんまりよくわからんかった。イグニスが主人公を好きになるのはまだわかるが(意識する描写もあったし)、イグニスのことをさほど意識していなかった主人公があっさりイグニスが特別になっているのはよくわからん。イグニスの優しい思いに惹かれたのはわかるがだいたいみんな優しいし、主人公の境遇や気持ちも含めてきっかけとなる印象深いエピソードがあまり無かった。



共通は本当に味のしない香りだけするコーヒーを飲んでるみたいで辛かった。挽く前の豆食ったほうが美味いと思えるぐらい味がしなかった。実際挽く前の豆は結構美味い。
根本的な問題を問うが、これ……主人公がいる意味のあるシナリオだったんだろうか。流されていたというわけではないし、守っているし立ち向かおうとする勇気も持ち合わせていた。でもそれ以上に主人公らしさが欲しかった。生い立ちから育ててきた考え方やそういうものを見てみたかった。確かに主人公がきっかけなんだが……それはこの主人公らしさってのとはまた違う気が。

何度でも言うが、ドローミくんの扱いは本当に心から可哀想。イグニスが作中でドローミくんのことを「使えないやつ」とこき下ろすのだが、それこそが奪う側の思考の始まりのような気がする。ベスティアという強さが正義という世界の縮図。それをわざとそういう構図になるように演じていたドローミは今思えばある意味強者なのかもしれない。まあお互い単なるこういうキャラクターだと言われればそれまでだけど。
もちろんこれを反転させる展開だったのは面白かったし、そこに少なからず意図はあるのだろうけれど……最後の結末を見るにただの物語のパーツに過ぎなかったのかなと思うと、なんとも言えない気持ちにさせられた。ドローミが仲間の死に触れて、感じて、考えて、強い意志で行動してきたことを思うと、ハッピーエンドで良かったねとは到底思うことは出来なかった。ドローミの気持ちに多少なりとも変化がない以上、ベスティアは何も変わっていない。強いものが勝って弱いものが負けた、ただそれだけのような気がする。